東京高等裁判所 昭和43年(う)2592号 判決 1969年6月04日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は東京地方検察庁検察官検事高橋正八作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これをここに引用し、これに対し次のように判断する。
所論に基き案ずるのに、一件記録によれば被告人は昭和四一年四月二五日大阪地方裁判所堺支部において、売春防止法違反および暴行の罪により懲役一年二月罰金一五万円ただし懲役刑につき三年間刑の執行猶予の判決を受け右判決が同年五月一〇日確定していること、原判決言渡当時にあってはいまだ右執行猶予期間を経過していなかったこと、および原判決認定の事実は右執行猶予の言渡を受けた前刑の罪と刑法第四五条後段所定の併合罪の関係に立つものでないことをいずれも認めることができる。ところで刑法第二五条第二項本文により再度刑の執行を猶予する場合においては、同法第二五条の二の規定により必ず右猶予の期間中被告人を保護観察に付することを要するものであるから、前記の如き関係にある被告人に対し懲役一年を量刑処断した上刑法第二五条第二項本文により再度刑の執行を猶予しながら、右猶予の期間中これを保護観察に付する旨の言渡をしなかった原判決は明らかに法令の適用を誤ったものであり、この点の論旨は誠に理由がある。然しながら右執行猶予を付せられた前刑についてはすでに昭和四四年五月九日の経過によりその猶予期間の満了していることが計数上明らかであって、原判決当時とは異り現在においては被告人に対し刑の執行を猶予する場合にあっても必しも保護観察を付するの要なく、保護観察を付するか否かは情状を勘案した上裁判所がその自由な裁量により決定しうるものであるところ、一件記録を精査しても特に本件被告人に対し保護観察を付せなければならない情状があるものとは認めがたいから、被告人に対し保護観察を付することなく刑の執行を猶予した原判決の違法は現在においては治癒され、右違法は結局において判決に影響を及ぼさないものと認めるのが相当であるから、所論は理由なく採用できない。
よって本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三九六条に則ってこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 山田鷹之助 判事 山崎茂 中村憲一郎)